破壊された部分の断面を綺麗に整形してゆきます。なるべくRが大きく、均一になるように削り込みました。
同じ厚みで断面やRを整えた部品を作ってゆきます。
慎重に位置合わせをして溶接します。溶接によってケースに歪が出ないような段取りを考えながら作業します。
溶接で起こる歪はものすごい力なので、箱状のクランクケースなどは簡単に変形してしまいます。あちらこちらとバーナーで炙りながらの勘の作業です。
・・・もうかなり昔の話ですが、油冷のレース用のシリンダーヘッドを5、6台ぐらいまとめてドリリングにて軽量化した事がありました。
レース用なので余分な肉を削ぎ落とすべく電ドルにロングドリルの刃をセットして、ヘッドの外側、内側(冷却効果も狙い燃焼室の裏側など)をサクサクとドリリングしたのですが、その後ポート研磨をしている際に小さいアルミの巣のようなものが削る程にドンドン大きくなってゆき・・・
ハッと気付いた時に血の気が引いたのを覚えています。巣だと思っていたのはヘッドの裏側の軽量したドリルの穴の先端でした。数台まとめて加工してしまっていたのでかなりの事件でした。
まずはきっちりとポーティングをして貫通するところは貫通させてしまい、アルゴン溶接で軽量した部分を埋め戻して再度ポートを修正して仕上げたのですが、溶接によるヘッド全体の変形が予想以上に大きく、カムシャフトを乗せるとクリアランスが無くなっていて堅くて回らなくなっていました。
当然、燃焼室側の面も歪んでいたのでしょうが、こちらは研磨して多少は誤魔化せますが、カムシャフトホルダーはそういうわけには行きません。鉄ノコの刃を整形した工具で手加工でアルミを少しずつ削り取り、何日もヘッドを抱えてカムシャフトが軽く回るまでカムホルダー部を削っていったのですが、洗浄して組み立ての工程で、カムシャフトと平行に取り付けるロッカーアームシャフトが途中で入らない事が判明して万事休す。悪あがきの終焉を迎えました。
冷静さを失ってジタバタしながら泥沼にはまってゆく典型のような失態ですが、今となっては貴重な経験の一つになっています・・・
不幸中の幸いでケース内の壊れた部分は構造上、直接力を受け止める部分ではなく、ケース内部の空間を仕切る為の壁のような部分だったので、合わせ面以外はシビアな寸法合わせは必要ありませんでした。
時間がかかって大変なのはこの面出しです。溶接時にぴったりの面を出すのは無理なので、多少プラスになるように材料を作り、溶接後に落ち着いてから周りと同一平面になるまで研磨してゆきます。最初はガリガリと鑢で荒削り、仕上げはストレートエッジで確認しながらオイルストンで面を作りました。合わせ面同士の平面が光明丹で綺麗に確認できるようになるまで忍耐のいる作業です。
ホンダCBR600RRのエンジン始動不良の修理です。
時々エンジンが掛からなくなり、とうとう完全にアウトという状態でのお預かり。
セルモーターは回るが、プラグに火が飛ばないという良くありがちな状況です。
この手の修理の場合、点検の手順がメーカーのサービスマニュアルにありますが、
手順の最終段階で「イグナイターユニットの交換」にて完結する場合が殆どに
なっています。
イグナイターは複雑な電子部品なので、直接テスターで抵抗を測るなどでは
判定が難しく、イグナイター以外の原因を排除して行く消去法になっていますが、
ここで一つでも判断を間違えて新品のイグナイターに手を出してしまうと、
プラグの火は非情にも飛ぶこと無く、非常に高額なイグナイターが一瞬で店の
不良在庫になるという痛い状況になりかねないので、原因の切り分けには特に
特に慎重になります。
車体から外したイモビライザーのアンテナです。
今回はほぼ原因が特定できたのでこのまま交換でもよかったのですが、
確認の為ハーネスの保護チューブを外して、リード線を点検してみました。
目視ではどう見ても異常無しですが、矢印のリード線だけは手応えが違って
いたので・・・
カッターでリード線の皮膜を切るとこのように中でスッパリ切れていました。
特に無理が掛かっていたようには見えなかったので意外です。
部品自体の交換は必要無しと判断して半田とリード線でハーネス修理しました。
以前にカワサキの新車の修理で同じような事があったので製造上の問題かも
しれませんが、いずれにしてもハイリスクなイグナイターの交換にならずに
済みホッとしました。
ウインカーリレーと言えば長らくこんなスタイルでした。
独特な形をしているので、ウインカーが点滅しないなどの
修理の際は見つけ易く、交換し易いパーツでした。
値段も安く、700円ぐらいで買えた覚えがあります。
80年代中頃からはこんな感じに変わって行きましたね。
ウインカーの他にもいろいろなリレーが搭載されはじめましたが、
皆同じような形なので、外見だけで簡単に見分ける事は出来なくなりました。
これは80年代のBMWのKシリーズのウインカートラブル修理の際の写真です。
緑色の箱を引っ張り出すと車体に対しての大きさがわかると思います。
ウインカーリレーとしてはかなり大きいです。ちょっと複雑なユニットです。
この頃は樹脂で固めていないので中身がそのまま出てきます。
まるで古いトランジスタラジオの基盤みたいです。
基盤の裏側です。赤丸で囲ってある部分の半田で固定してある「足」の周りが
汚れているように見えます。
この「足」は半田が十分に付かずに中途半端に固定されていたようで、振動で
外れてプライマーである「ヤニ」が削れて出てきた感じになっています。
目視で原因が判明したので、比較的簡単に修理が出来ました。
こちらは2000年代後半のドカティ400モンスターのメーターです。
走行中にエンジン不動となりレッカーで入庫された車両です。
キーをオンにするとインジケーター点灯せず、セルモーター回らず、
ウインカーも点滅せず、イモビのランプのみ点滅している状態でした。
エンジンがかからない原因はいろいろありますが、イモビライザーという
盗難防止装置が付いている車両では、これの故障が原因になっている事が
あります。エンジンを掛けさせまいとするシステムなので当然ですね。
イモビライザーはシステムとしてイグニッションスイッチの周りにアンテナが
ありますが、そのアンテナとECUを仲介する役目をメーターが担っています。
現在の車両は、メーターがメーターの機能に留まらず、幾つかの機能を集約
した電子デバイスのようになっています。
そして先ほどから話題にしているウインカーリレーも実はこの中にあります。
小さいリレーが入っていると言うよりも、マイコンがリレーの動作をするような
プログラムがメモリーに格納されているという方が適切でしょうか?
つまり、メーター内のコンピューターが正常動作しないと、エンジンも
掛からなければ、ウインカーも点滅しないのです。
これの場合は苦戦しましたが、何とか正常動作させる事ができました。
メーターアッセンブリーはかなり高額なので、気軽に交換しましょう
とは行きません。
イモビの認証システムの関係で、中古メーターにも簡単に交換する事が
出来ないので、電子化が進むこれからのバイクは仮に些細なウインカーの
トラブルでも、車両自体の乗り換えを考える時代になるかもしれませんね。