以前、別冊モーターサイクリスト誌で「華麗なるエンジンブロー」なる特集記事がありました。
壊れたエンジンにとっては「華麗なる」って言葉は労をねぎらっての賞賛の意味でしょうが、
それをひねって?加齢による金属疲労で起こるエンジンブローという意味です。
見事にダメージを受けたこのピストンは美しいラウンドケースべベルエンジンに
収まっていたVeeTwo製ハイコンプレッションピストンです。
VeeTwo製とはいえ、製造はアメリカのWISECO社です。
ビッグエンドが破壊されたコネクティングロッド。
「単なる機械」とは思えないそれぞれ愛着のあるオートバイのエンジンパーツ。
どこか哀愁を感じてしまうのは、元気に走っている姿との対比からでしょうか?
これが取り出した「折れタップ」です。
世の中には折れたタップを外す工具なども存在しますが、
条件が悪ければそれを使っても取れません。
そんな場合は削って取る事になりますが、折れたボルトと違って、
タップの場合は材質が硬いです。
「ハイス」と言って、ドリルの刃と同じ材質を使っています。
同じ材質同士では削る事が出来ないので、「折れタップ」は
厄介なトラブルなんです。
今回は超硬の工具や砥石を使い、なるべくネジ穴を崩さないように
取り外す事が出来ました。
しかし・・・
このように、ネジ穴がかなり斜めになってしまっています。
折れていたのがヘリサート用のタップだったので、ネジ穴自体も
大きくなっています。
溶接で埋める作業でもしない限り6ミリボルトは使えない状態です。
そこで今回はスイングアームのネジ穴を使うのはやめました。
チェーン引きに加工してあったネジ穴を利用して、ナットを回して
調整する仕様に改造しました。
本来の状態ではなくなっていますが、機能は十分に果たしています。
ドカティ400ssの全体的なメンテナンスのご依頼。
ほどほどに古い車両なので、オイル漏れやら滲みやら有り、
ラバーパーツの劣化有りなど、通常の劣化は一通り見受けられます。
ところが整備中に左のチェーンアジャスターに見慣れない異常を発見。
アジャストボルトが逆に?ついています。さて・・・
アジャスターを外すとこうなっていました。
これではチェーンの調整が出来ません。
見た目に判らないだけで機能は死んでいます。
理由はコレでした。
本来はネジ穴になっているところですが、折れたタップが
入りっぱなしになっていました。
もともとこの部分のネジ穴とアジャストボルトは非常に膠着しやすいです。
腐食による膠着なので、グリスを塗っていれば防げますが、
何もしていない車両はよく膠着しています。
この車両も膠着があって、無理に回してボルトが折れてしまい、
折れたボルトを外そうともがいているうちに元の穴が崩れ、
最後にはドリルもタップも真っ直ぐに入らず、斜めに入った
タップが抜けずに折れてしまったのでしょう。
メカニックならば必ず通る試練ですが、このままにして
修理完了としたのはいただけませんね。
つづく