まずはリヤの足回りからバラしてゆきます。
この車両はかなり綺麗で程度が良さそうですが、
時間の経過による劣化は避けられないので
ひとつひとつのパーツを慎重にチェックしてゆきます。
リヤサスのシリンダー内部です。
窒素ガスがオイルに溶け込んでいて、分解すると
シュワシュワ泡立ってきます。
時間の経ったリヤサスは殆どこの状態です。
幸いロッドの錆なども無く、消耗部品の交換のみで復活できます。
各部清掃と消耗部品を交換し、組立準備完了です。
リヤサスのリンク回りも分解します。
この部分に使われているベアリングやカラーも点検します。
あまり頻繁に分解する箇所ではないので、消耗品は交換
する場合が殆どです。
足回りのボルト、ナット類も洗浄し、
キャリパーサポート回りも洗浄。
スイングアームも丸洗い、ベアリング交換などを済ませ、リフレッシュしました。
折れたコンロッドの相方はほぼ原形を留めていました。
古っぽい風貌ですが、軽さと強度を兼ね添えた合理的な形状です。
このまま再使用出来そうな感じもしますが、暴れた部品から受けた傷が
あちこちについているので、現役引退してもらいます。
ビッグエンド内側がベアリングレースを兼ねているので、
この部分はベアリングローラーが転がります。
ココの面が荒れるとベアリングにガタが出て異音がするようになります。
異音を放っておくとピストンがヘッドやバルブに当たりだして重症化します。
そんな風にダメージが進んでゆく事はありがちですが、今回のように
ベアリングに異常がなく突然の破壊は、どちらかというと
スープアップされたレース車両などに多い壊れ方です。
壊れた方のコンロッドのこの部分もキレイな状態でした。
ちょっとお遊びでこのラウンドべベルのコンロッドの
有限要素法による構造解析を行ってみました。
使ったソフトは「AutoCAD」で知られているAutodesk社の
sim360というクラウド型のシュミレーションソフトです。
しかしこのソフト、解析機能が主ですが、3次元CADとしての
機能も兼ね備えています。(このコンロッドモデルもこのソフト
で作りました)しかも大変直観的で使いやすく、
この手のソフト特有の「慣れ」をあまり必要としない
先進的なインターフェースを持っていますが、ローカルで
使うソフトと比べるとレスポンスがあまりよくありません。
PCの環境によるのかもしれませんが・・・。
コンロッド本体からおおまかな寸法を拾って
似たような形状にモデリングしましたが、
フィレットを多用して滑らかな形状を再現すると
メッシュがうまく切れない場合があるので、
ポイントだけおさえて形状決定しました。
形状作成が終わってシュミレーション実行したところです。
スモールエンド内側全体を拘束し、ビッグエンド内側に
下方向(伸び方向)へ荷重をかけています。
これは今回壊れた部分にストレスがかかる状態
の簡易的な再現です。
具体的には排気上死点付近でピストンやコンロッド
が、自身の慣性力によって引っ張られる状況です。
本来ならクランクやピストンなどのコンポーネントと
のアッセンブリとしてシュミレートするべきで
このソフトはそれも可能ですが・・・
メッシュの切れ方にちょっと難ありですが、ビッグエンドに
ストレスが集中している部分があるのが解ります。
ストレスのレベルをスライドさせてみるとビッグエンドにあるムラ
や、スモールエンド接続部のストレス集中がよくわかります。
実際、スモールエンド付近もブレークポイントになります。
適当な位置でスライスしてみると、内部のストレスの状態
が解ります。ここでもビッグエンド内外でのストレスのムラ
がある事がわかります。これの原因は・・・・
ビッグエンド全体の変形によるものでした。
変形量の違いによって、かかるストレスにムラが出来るという事です。
実際はこんなに変形しませんが、変形率を変える事でデフォルメ
させるとこんな感じになる傾向があるのが解ります。
このような荷重による変形やストレスが一日走っただけでも
数百万回起こっています。
それでも普通は十分な耐久性があって簡単に壊れる部品ではありません。
しかし、金属組織のムラや表面の小さな傷などの応力集中が
起き易いところがあった場合は、この繰り返しのストレスが
金属にジワジワと疲労を蓄積させ、設計通りの強度が発揮できない
ことになります。
’97のスポーツスター 16年経っても変身中です。