カジバ V1000ラプター エンジン不動修理のご依頼です。
わりと珍しいバイクですね。ラプターとはジュラシックパークにも出てきた恐竜、
ラプトルの意味のようで、ところどころに恐竜をモチーフにした造形が
あったり、大型バイクらしからぬあそび心あふれたバイクです。
ラジエターが表裏逆に取り付けられているのもなんとなくエキゾチックかな。
ご覧のようにタンク内に水分(というより水そのもの)が混入し、
フューエルポンプのプラス側のリード線が腐食してちぎれてしまった事が
不動の直接の原因でした。
リード線の+-端子共に最下部、つまり水に完全に漬かる位置にあったのですが、
マイナス側は殆ど腐食しておらず、いわゆる電食が起きていた
のかなと思える状態でした。
タンクより取り外したフューエルポンプユニットです。
結構長い期間、水にさらされた状態だったことがわかります。
よくもこんなになるまで走れていたなと感心するぐらい腐食しています。
パーツリストもマニュアルも無いので、綺麗に元通りにだけしました。
ポンプ回りに致命的なトラブルもなかったのも幸いしました。
タンク内部も綺麗に洗浄します。こちらは樹脂製なので問題ありません。
途中で気が付いたのですが、ポンプユニットはどうやらスズキTL1000の
物をそのまま使っているようでした。
なので、まるごとダメでもパーツに関しては心配無用です。
タンクに組み込む前に通電してポンプ内を浄化します。
今回の不調の大元の原因がコレです。
タンクキャップ回りの凹みに水が溜まらないように逃がすホースのジョイントです。
耐蝕性の低いアルミが地肌のまま使われていました。
白い錆びで内部が完全にふさがれていた状態なので、タンクキャップを開けるたびに
回りに溜まっていた水がザバッとタンク内へ流れ込んでいたのでしょう。
この手の不具合はエアプレーンタイプのタンクキャップが採用され始め、
それらが古くなった状態で時々目にするようになりました。
タンク内を貫通するスチールのパイプ内部が錆びと汚れで詰まったり、
タンク下から延びるゴムホースが途中で折れ曲がっていたり・・・
エアプレーンタイプで古い年式のバイクに乗っている人は、一度点検してみる事を
お勧めします。
社外のホイールなどで使っているドーナツタイプのハブダンパーは、
容量が少ない為か堅いラバーのタイプが多いようです。
特にドカティのハブダンパーはラバーの外側と内側にスチールの
スリーブが溶着?されたものがホイール側に圧入するタイプなので、
イザ交換となった時に少々手間だったりします。
車検整備でお預かりしたこのGT1000は、ダンパーの内側
のスリーブが自然にポロリと取れてしまっていたらしいのです。
アレが抜けると構造上ホイールの内側に入ってしまうみたいです。
案の定、その他の内側のスリーブもスポスポ抜けてしまいます。
入れ替えるのには面倒なパターンです。
そんな時の為にお手製の特殊工具が活躍します。
メーカー想定外の壊れ方をした場合はそれに見合う工具なんて
用意されてないので、汎用工具と自作工具を組み合わせて対処
したりします。
ドカティGT1000と750GT。
カワサキで言うとZ1とZ1000、ホンダで言うとCB1100
とCB1100Fみたいな感じですかね。
キャブレターからインジェクションへの移行は、時代の一つの
節目という感じがします。
昨年、海外のラリー「アジアクロスカントリーラリー」走行中に
エンジントラブルを起こしてしまったヤマハWR450Fの修理のご依頼です。
このバイクのトラブルの原因は、経緯は不詳ながらエンジンオイルの量の
問題だという事でした。
何等かの原因で、オイルが入っていない状態でスタートして、100km以上
走行した時点でストップしてしまい、オイルを入れて再スタート後に再び
エンジンストップでレースをリタイアされたという事です。
シリンダーヘッドカバーを開けて様子を見たところ、カムシャフトホルダー上に
メタリック系のダストが溜まっているのを見つけてしまいました。
これはおとなしくエンジンを降ろして全バラコースです。
エンジンを降ろしてシリンダーヘッドを外したところです。
焼付いたエンジン特有のオイルが焦げたいやな匂いはしません。
オイル切れに弱いカムシャフトジャーナルも傷無しで、
ピストン、シリンダーの動きもスムースでした。
前の写真もそうですが、ピストンヘッドや燃焼室が湿った汚れです。
リングの摩耗でオイル上がりを起こしている状態でしょうか。
インテークバルブがピストンと当たった痕が付いています。
(前の写真はバルブに痕がついています)
オーナー曰く、走行中にカムチェーンとスプロケットがズレたようだと。
だとするとエンジンストップの原因は伸びたカムチェーンですね。
オイルフィルターを外したところです。
ハウジングの中にクリーミィなダストが溜まっていました。
フライホイールの内側のマグネット部にも・・・・
ダストは鉄分が多いながらもアルミ系も混ざっていますが、
とにかくきめ細かいです。クリーミィです。
そしてエンジン内の全てのパーツに焼き付き、カジリなどはありませんでした。
レースなのに、全開走行なのにです。
しかし、ほぼすべてのパーツが綺麗に?摩耗していました。
まるでオイル交換をさぼって何万キロも走行したエンジンのようです。
カムシャフトのジャーナルに段付き摩耗があるのがわかるでしょうか?
実際にどのくらいクリアランスが増えてしまっているかゲージで測定します。
カムシャフトホルダーのジャーナル受け部は鈍い灰色をしていますね。
まるで細かいガラスビーズでブラストをかけたような状態になっています。
カムホルダー部の内径を測定します。当然両方とも摩耗していますが、
カムシャフトの方がより摩耗していました。
カムシャフトは鉄でホルダーはアルミです。
恐らく柔らかいアルミの上に鉄粉が埋まり、鉄同士が擦れたのでしょう。
全てのパーツがこんな感じでした。
ピストンとシリンダーも比較的綺麗に摩耗して微妙に限度を超えていました。
クランクシャフトもビッグエンドのガタが同じく微妙に限度を超えていました。
全てのベアリングは交換し、ミッションを含めて擦れる部分は全て交換です。
旧車のエンジンレストアなどで、サンドブラスト後に内部に砂が残っている
状態で組まれてしまったエンジンを思い出しました。
オイルに混ざった砂があらゆるスキマで研磨しまくるのです。
ひときわダメージの大きなパーツはこのカムチェーンでした。
恐らく鉄粉の大部分はこのチェーンから発生していたのでしょう。
伸びたチェーンがクランク、カムのスプロケットも傷めていたので、
どちらもアッシー交換を余儀なくされました。
全てのパーツを徹底的に洗浄します。
粉状の金属が至る所に堆積しているので溶剤では溶けてくれません。
細いオイルラインや行き止まりの加工穴など、掃除しにくい所に溜まる
から厄介です。
全体の作業からすると、パーツの洗浄はかなりの割合になってきます。
クランク、ピストン、シリンダー、カムシャフト、バルブ・・・・
エンジンの中身はかなり入れ替わる事になりました。
使用目的が海外のレースなので、ちょっとの妥協が全てをパーに
しかねないので修理のコストは上がってしまいますね。
シングルエンジンとは言え、最近のモデルは水冷な上にインジェクション
関係のセンサーやパイプやらが狭いスペースにギッチリ詰め込まれて
いるので整備性はあまり良くないですね。ハーネスとかホースとかの
取回しは分解時に覚えきれないし、イザ組み立てる時は頼りのマニュアルの
イラストでは細かいところが解らないしで、写真を撮っておけば良い
場合もありますが、すでに人の手が入っていてオリジナルでは無い可能性
だってあるし・・・。
ホース一本、配線一本でも最善の取回しを考えながら組み立てるのは
予想以上に時間のかかる作業です。
トラブルの経緯と実際の故障内容がぴったりシンクロしないちょっと
不思議な感じの故障修理だったので(新車からの不具合が100%無い
とは言えないので)特に慎重に作業しましたが、実際に乗ってみないと
安心できない性分?なので、十年ぶりぐらいに相模川のモトクロスコースで
試乗です。
エンジンはがんぱってくれたみたいです。オーナーの腕でお見事4位。
直線のダートコースで150km/hで全開走行なんて・・・。
エンジンの壊れ方でまた一つ勉強になりました。